top of page

丹波篠山にてアートギャラリー「 丹ゆう art gallery 」
@tanyu.artgallery を営む画家・福田匠さんに、これから一年を通して「 床噺 」と称し、salon&gallery虹霓 の室礼のご提案をしていただきます。

 

重ねた打ち合わせの中で、福田さんからテーマとしてご提案いただいたのが「蓮」。

お持ちくださったのは、寡作でいらっしゃる福田さんの新作でした!

額を床の間に掛けていただいた瞬間、まさに蓮華の五徳の一つ「汚泥不染の徳」のごとく、空間に花が咲いたように華やぎ、清浄な風が吹き込みました。

この作品は油彩を描いたあと、拭ったり絵の具を足したりした時間的・身体的軌道をキャンバスに留めるという、まるで長時間露光の写真のような表現で制作されています。

 

店舗移転や出版部門の立ち上げなど、閉じて、開いて、展開して、を凝縮していたここ数カ月の私の動きにアーティストとして連動してくださった福田さんならではの、衛星的着想から生まれた「Phenomenon」。素敵な言葉をタイトルに冠された新作を、ギャラリーとして初めて飾らせていただけて光栄です。

 

経机を敷台に合わせてくださったのは、未開敷蓮華残欠。

花弁が回転するという仕掛け人形のような仕組みで彫られた貴重な一茎は、光の角度によって表情を変え、まさに今、悟りを開く一念をとらえています。

 

それでは、正式な第一回目の床噺を福田さんよりお聞かせいただきます。

 

-

 

「床咄其ノ一」 紫野の蓮

 

季節は春。
さまざまな物事が動き出す時期に、床しつらえの初回を迎えました。
床の間のしつらえについて語る小咄、すなわち床咄(とこばなし)として、この拙文を発信いたします。
どことなく艶っぽい響きですが、それもまた一興ということで、どうぞお付き合いください。

 

さて、記念すべき初回、やはりここはきものブランド蓮佳を象徴的に表す“蓮”に材をとりたいと思います。
そこで、枯れた味わいのある経机の上に残欠の蓮を一茎。
仏教美術の世界において、残欠美の代表ともいえる蓮弁はその不完全さ故、逆説的にその価値が見出されたとも考えられます。うつくしい彩色が残る優美な平安の蓮弁などとは比ぶべくもない今回の蓮ですが、それでも茎の曲線や稼働する花弁など、なかなか見所がある愉しい一品です。また、この蓮は未開敷(みかいふ)蓮華と云われ、悟りを開く前の状態を表しており、今後何かを予感させるような雰囲気の造形が魅力的です。

 

壁に掛けられた作品は、福田匠の「Phenomenon(フェノメノン)」と題された油彩画。
淡い桃色や緑色は蓮の蕾の色彩を想起させます。
この絵画は、一度描かれた図像を拭い取ることにより、すべてのものごとは移り変わるという仏教的無常を表現しています。そして、拭い取る運動によって生じた絵の具の擦れや溜まり、またそれらの重なりなどは新たな事象(画面)を生み出すための軌跡となっています。

 

この運動は、野原氏の日々の行動や思考、感情、生活環境、人間関係などにそのまま当てはめることができ、それらあらゆるものの軌跡が重なり合い、新たな事象として今の蓮佳をつくっていることになります。

salon&gallery 虹霓を上高野からこの紫野の地に移して、およそ四ヶ月半。
その間、野原氏は催事や月に一度の朔月会、書籍の発行など目まぐるしい日々をくぐり抜けて来られました。
そして、これからも幾度となく移ろいを繰り返しながら、より一層きものに想いを巡らせ、心を尽くすことでしょう。
いつか未開敷蓮華の蕾が開くように、蓮佳の理想の美がこの紫野の地で花開くことを願ってやみません。

最後に野原氏の「蓮佳」という名に込めた想いを記して、今回の床咄を締め括ります。

 

“仏教には蓮華の五徳という仏説があり、その中のひとつに、蓮は泥の中でも清浄な花を咲かせるということから、人生の苦海の中でもうつくしく咲く蓮のように、きものを通じて纏う方のうつくしさを引き立てるものが創りたい、そして艱難辛苦の多い女性の人生の中でも、うつくしい工芸品が纏う方の心を癒すときがあるように”

 

Phenomenon 2024

寸法 H76,0 W56,0[cm]
素材 紙に油彩
価格 ¥231,000(税込)

 

木彫未開敷蓮華残欠 江戸時代

寸法 W42,0[cm]
価格 ¥88,000(税込)

 

-

 

福田匠(ふくだ・たくみ)|絵画

 

古くから数多ある文化や信仰、民俗、芸能、神話など、またはそれらに関連する土地や現象を主題に制作を行います。時代を経て積み重ねられてきた、あるいは失われたものの本質的要素を可視化させる試みは、言い換えれば人びとの無意識下の古層を掘り起こし、新たな意味を見出す作業に他なりません。

ここでいう新たな意味とは、美意識に対する認識や価値の転換であり、それらの要素を掬い上げて作品として提示することは、美術における重要な役割のひとつだと考えています。

 

略歴

1981 和歌山県出身

2022 兵庫県丹波篠山市にて〈丹ゆう〉開廊

 

個展

2017 Scrape-Surface and Color(雅景錐・京都)

2015 かたちの在り方(MAISON GRAIN D’AILE・大阪)

2014 Kulchur Voyage(pragmata・東京)

    森の技法[巡回展](森岡書店・東京、MAISON GRAIN D’AILE・大阪)

2013 存在と恩寵[巡回展](hase・愛知、MAISON GRAIN D’AILE・大阪)

*その他、展覧会多数

丹ゆう art gallery | 福田匠「床咄其ノ一」

¥290,000価格
  • 近隣のお客様は、店頭引取りも可能です。

関連商品

bottom of page