
gekkosha book collection
月虹舎文庫
私たち40代前後の世代は、熟練の職人さんの口伝を受けられる最後の世代です。
口伝という言葉そのままに、これまで職人さんの技術や知識、経験は、活字やデータベースに残されることはありませんでした。
「真」を知る人々の英知を、精神を、僅かでもいいから受け継ぎたい。
それが叶わなくとも、せめて記録に残して、次の世代を生きる人々のヒントとなるようバトンを渡していきたい。
書籍にまとめて国会図書館に納めておくことで、いつか誰かに届くかも知れないから。
そんな思いで、「月虹舎文庫」を立ち上げます。
基本的には、きものと、きものにまつわる日本の伝統工芸に関わる分野における出版社として、自社企画「採花譜」の書籍出版と、持込企画を年に数冊ずつ、丁寧に編んでいきます。
未来は、記憶の蓄積によって作られてゆくことを信じて。
自主企画
花と暮らし、花をまとう
Living with flowers and Wearing flowers
「採花譜」は、各地に残る植物染古法を研究し、京友禅の精神を承継していくプロジェクトです。
古来から在る染織に心惹かれ、染めの伝承地を尋ねると、
日本の植生の豊かさ、自然に由来した慎ましやかな文化に魅せられます。
花を育て、花に倣い、着物を染めていると、
暮らしは暦のリズムそのものなのだと感じます。
青を建てる藍の、陽差しから守る力。
黄を含む福木の、風雨を和らげる力。
赤を孕む茜の、血を清める力。
紫を宿す紫草の、悪霊を祓う力。
白を顕す絹と麻の、神の依る辺となる布。
人が布をまとう理由は、
「薬草の色を写した布で身を護るため」でした。
季(とき)と刻(とき)のあわいにたゆたい、
花と暮らし、花をまとい、暮らしを見つめてゆきたいと思います。

此君亭(しくんてい)。
竹工藝ではじめて人間国宝に選定された故・生野祥雲斎(しょうのしょううんさい)が約100年前に大分市白木の地に建てた工房兼自宅です。
いまはご当代の竹芸家・生野徳三(とくぞう)氏、寿子(ひさこ)夫人に受け継がれ、柳宗悦や黒田辰秋など、この地を訪れた文化人をもてなす迎賓館としての一面も持っています。
お茶人のお客様は、「生野祥雲斎」「生野徳三」「此君亭工房」の竹籠や竹筒をお持ちの方も多いかも知れません。
徳三先生が「彫刻」と呼ぶ独特の造形は、親子2代でそれまでの竹芸の枠を飛び越え、竹芸を芸術にまで高めたアーティストの作品として、メトロポリタン美術館に永久コレクションされるなど、世界的な評価を受けています。
きもののルーツと民俗学を研究する「採花譜」のプロジェクトで編集を担っていただいている渡邊航さんは、「日本の多様な風景に触れたい」と、それまで長く勤めておられた京都の美術出版社を退社後独立され、フリーランスライターとして大分県に移住。此君亭を紹介され、「この風景を留めたい」と将来の書籍化をおぼろげに抱きつつ、4、5年の間写真を撮り続けておられたそうです。
渡邊航さん写真・編集で此君亭の四季を綴る『此君亭好日』。
2024年1月10日発刊予定です。
生野祥雲斎の命日でもあり、ゆかりの古美術紹介や、普請道楽でもある徳三先生が築いてこられた、それぞれの木の物語がある框や庇を使った数奇屋建築。柞原神宮の荘園だった棚田の石垣を活かした日本庭園、寿子夫人による四季のしつらえなど、此君亭の約100年史を辿ります。
揺れる水面に時の移ろいが映え、床に四季の風が吹く此君亭の歳時記。
降り注ぐやさしい光に包まれて日々を営むこと。時を重ねてこの地で生き、老いること。人間の根源である、暮らしの普遍的な美に気付かされる250頁。
それは、生野祥雲斎から受け継ぎ親子2代で築き上げ、徳三氏と寿子夫人が高めてきた美の人生賛歌とも映るのです。
